アポリカ!通信 2024年9月:『Music & Learning Interaction』

 秋の音。

 この夏は、連日の熱帯夜に、窓を閉め切って、冷房を付けて、ゆるいSleep Mixを流しながら寝るのが習慣になっていた。でも一昨晩は、窓を開けた開放感の中、そよ風が吹いて、鈴虫の声が聞こえてきて、自然のゆらぎが気持ちよかった。日本人で良かった🎑

 つい先週、夏期講習の英検1級のレッスン中。文章のテーマは『音響環境学』だった。中2の生徒Aさんが、「先生、知ってますか? 私たち、同い年くらいの人と話している時、おばあちゃんみたいなんです」と言い出した。どういうこと?と訊ねると、同年代の(若い)人たちは、ずっとイアフォンを付けて音楽を聴いて難聴になっているから、お互いに「えっ? 何?」と聞き直すことが多い、、ということらしい。

 確かに、外を歩いていると、イアフォンやヘッドフォン、特にワイアレス・イアフォンを付けている人が以前よりかなり増えているように思う。調べてみると、世界的にイアフォンとヘッドフォンの市場規模は膨れ上がっているようで、ということは、世界中で、Aさんのような10代の「おばあちゃん」や「おじいちゃん」が増えているのかもしれない。

 ヘッドフォンには、密閉型と開放型がある。それぞれの特徴から音の響き方が違うので、自分は用途に合わせて、audio-technica(オーディオ・テクニカ)の密閉型を制作に、SENNHEISER(ゼンハイザー)の開放型を鑑賞に、と使い分けている。SONY(ソニー)のイアフォンは、あまり使っていない。

 授業をしていて困るのは、生徒たち(特に学生、女子)の声が小さいこと。声が通らない、とも言える。特にうちのような対話式の授業となると、発言する生徒の声が聞き取りにくいと、「えっ、何?」と聞き返してテンポが乱れる時もある。日本語特有の周波数特性や抑揚に乏しい話し方も影響していると思う(声が小さいイギリス人には会ったことがあるけど、声が小さいアメリカ人に会ったことはない)。さらに常日頃からマスクを付けている生徒もいる。それ自体は全く構わないけれど、マスクを付けている人は、その分、声を張ってほしい…。Aさんのように、『おじいちゃんみたいなんです』と私が言ってみても、洒落たコントラストは生まれない。(※一般的な可聴周波数帯域=20hz~20khz 、蚊の音もはっきりと聞こえますが🦟)。

 さて、音楽と学びの関係について考えてみよう。半年前から、新しい英語ジムの方にスピーカーを置いて、うっすらと音楽を流している。より集中できるように、選曲などを試行錯誤しながら、学習者の反応を見つつ調整している。反応は、よい。

 自習にそもそも音楽が必要かどうか、という議論もある。でも、中には音楽がないと自習ができないという、『必要』どころか『依存』しているような生徒もいる。何もやらないよりはマシかも知れないけど、音楽に依存し続けていれば、学習効果も逓減(ていげん)する。自分も、試しに馴染みのカフェで文章を書いてみたけれど、オーナーの選曲が、ジャズ、ソウル、ポストロックと心地よく紡がれて、知っている曲が流れ始めた途端、自然と筆が止まってしまう。あ、マービン・ゲイ。ベースライン(=ジェマーソン)、いいなぁ、、と耳が追いかけてしまって、集中できるわけがない。

 自分も音楽が好きだけど、曲を聴きながら自習する、ということは滅多にない。確かに、ヘッドフォンやイアフォンを着ければ外界を遮断できる。でも学習中に自分の好きな楽曲を聴いてしまうと、その曲自体に意識が向く。本来の目的(=学習)を見失い、得るべき効果を得られない。できれば音楽は音楽だけを、なるべくいい環境で、時には一人で、時には誰かとじっくりと堪能したい。

 仮に自習の時に好きな曲を聴きたいならば、自習を始める前に聴いて、モチベーションの発動に利用するのがいい。オリンピックなどの舞台でも、試合前に聴くのをルーティン化して、毎回高いパフォーマンスを出す人も多い。休憩中に聴いて、脳をリラックスさせたり、心の準備をするのもよい、と思う。

 自習中にどうしても聴きたいなら、音楽を楽しむのではなく、学習効果を高める為に音楽を使うべきだ。適切なテンポの、クラシックやアンビエント/環境音楽のような歌詞のない音楽を選んで、少し低音をカットする。脳内にアルファ波を引き出して没入感と集中力、さらにシータ波を振幅させて記憶力の向上もできる、らしい。

 、、とか考えながら、高校生Bくんに「いつもヘッドフォンで何を聴いているの?」と聞いてみた。すると、「何って、、普通に、こういうやつです」と、(案の定)洋楽のアーティストを示してくれた。このアーティストは私も好きだけど、自習中ではなく、自習の前に聴くのがいいよ、、とだけ伝えた。

 英語特有のリズムや音声の響き、音韻などについてはまたいつか触れたいが、いわゆる洋楽から興味を持って、英語の世界に入る人も多い。先日も、ある小学1年生が、Earth Wind & Fire の ‘September'(9月🗓️)を英語で歌うのを聴いて驚いた。元々お母さんが好きで、聴かせていたら歌えるようになったらしい。好きな曲の歌詞を、リズムを取りながら音読するのも、かなり効果的な『自習』だと思う。

 音楽は、その使い道や、使い方次第で、いくらでも我々を助けてくれる。もちろん、学びにも。

(アンビエント・ミュージックの開拓者、ブライアン・イーノの珠玉の一曲)