アポリカ!通信 2024年6月:『Between this juku and that juku』

 ユニークな塾が、市場に溢れている。基準を自由に決めて『合格実績』を創作する塾。顧客満足度ランキングを経済力で上げる塾。過剰な量の宿題でやってる感を演出する塾(学校も)。売上予算達成のために、魂を売って提案する塾。塾の実績のために受験校を指定する塾(私の生徒が「受験料を塾が払うべきだ」と言っていたが、まったくその通りだと思う)。社長が違法賭博したり、直営本部がFCに嫌がらせをして裁判になったりする、授業をしない塾。社員が盗撮する塾。とてもユニークな、塾業界。ユニークでない普通の塾のなんと稀少なことか。『あの塾』のような塾は、今では絶滅危惧種だ。

 『あの塾』とは、昨年の春まで板橋区仲宿にあった開業40年以上の個人塾のこと。そこの塾長がうちの女性スタッフの所属する野球部の監督だったというご縁もあり、勝手に親近感を抱いていた。教育に並々ならぬ情熱をお持ちの方のようで、地元の方々からの信頼も厚かったらしい。アポロン開校からユウリカができるまでの3年くらいは英語以外のコースがなかったから、数学や他の科目で躓いている生徒には、私から保護者に『あの塾』を薦めたこともあった(塾が塾を薦めることもある)。

 『あの塾』があった当に同じ場所に、アポロンジムをオープンすることになった。また白髪が増えるだろうに。あの物件との出合いは必然か、それとも偶然か。もう縁としか言いようがない。

 『あの塾』と、『この塾』。調べてみると、このご時世、誰でも『講師』になれるらしい。『この塾』では、授業の準備は必要ないし、授業は動画に任せて、『講師』は解答を見ながら『サポート』すればいいらしい。楽でいいなぁ。白髪も減るかもしれない。老後は『この塾』に入れてもらえないかな。『学習塾のユ○ク○』を目指しているらしいから、面接にはユ○ク○でビシッと決めていこうか…。ついうっかりとチラシを見てみると『この塾』の全教室に『プロ教室長』がいるらしい。こんなに『プロ』という言葉が氾濫してくると、なんだか自分たちをプロと呼ぶのが恥ずかしくなってきた。他に言い方があれば、誰か教えて欲しい。

 昨年転職してきた(プロ)講師に、うちの塾には『純粋』な講師が多いと言われた。しばらく我々を観察して感じたのだろう。前の塾ではどうのこうのと、いろいろ比較してくれた。得てして年を取ってくると、徐々に日和ってみたり、純粋さを失ったりするものだ。純粋に、英語をうまく話せるようになりたい。純粋に、指導技術を向上させたい。純粋に、生徒を助けたい。純粋に、生徒の合格を願う。純粋に、生徒の挫折と向き合う。ただただ、純粋に。英語で言えば、INTEGRITYかな。『誠実』『正直』『高潔』『統一性』という意味がある。

 塾でも、ジムでも、純粋に。今のおかしな世の中で、純粋な精神を保って生きるのは、しんどい。理不尽なことは山ほどあるし、情報過多と価値感の多様化で、「柔軟に」とブレようと思えばいくらでもブレる。それでも、腐らず初志を貫徹して、この純粋さを引退まで維持できたら、自分の人生も悪くないかな、と思えるかも知れない。生徒やご家族、自分の友人や家族との回想の湯に浸って、いつかゆっくり花見がしたい。