アポリカ!通信 2023年8月:『Sparrow’s Tomorrow』

アポロンもユウリカも、授業の特徴は?と尋ねられたら、まず一つにINTERACTION(インタラクション:双方向のやり取り)と答えることにしている。一方的に解説するだけの授業ではなく、対話やディスカッションをしたり、生徒と協力して『リアル』な英文を創作したりする時間を取っている。

 今週の高1クラス。主題の『接続詞』を使って例文を作ろうと、

I heard the news that…

と板書したところで、

「最近、気になったニュースはある?」と生徒たちに訊いてみた。すると、ある男子から「…◯ッグ・◯ーター!」と、かなり風刺の効いた返しがあった。そもそもニュースにあまり関心を持たない高校生が多いので、一応女子たちにも「◯ッグ・◯ーター」の件について知っているか訊いてみると、瞬時に頷いた。「じゃあ、一緒に例文を作ってみよう」と促しながら、◯ig  … と書き出したところで、被害を受けた社員さんたちのニュース映像が頭をよぎり、そそくさと ‘that company’ に書き換えた。

 例文を即興的に作るのは、容易ではない。その場で浮かんだ題材を元に展開させ、ウィットを利かせて、しかも文法的にも正しい英文として成立させるのは、なかなか困難だ。リアルなら何でもあり、ではない。教育的に『セーフ』でなければいけないので、さらに難度が上がる。

 試しに人生で初めて「◯ッグ・◯ーター」と検索してみると、「買取台数◯年連続日本一」と高らかに謳われている。買取台数が日本一ということの価値が、門外漢の私には理解できない。見積りはどこよりも高く、のようなことも書いてある。とにかく量、数字を伸ばせという価値観なのだろうか。

 塾業界にも、「生徒数」「合格数」をアピールする企業が溢れている。もちろん、アピールするのは塾や予備校側の自由だ。しかし、その「数字」のカラクリや背景まで見透せる消費者はどれ程いるのだろう。さらに、多くの塾が実績基準を自分勝手に作っている(※1)。合格実績だけでなく、『予算達成』の圧力をかける上長。良心で跳ね返そうとする若い社員たち。しかし跳ね返せないからといって、社員が悪いわけではない。悪いのは個人ではなく組織の方だ、というようなことをハンナ・アーレントが言っていた(気がする)。社会経験のない学生たちには、よもや想像できないだろう。

 先日、初めてお会いした保護者の方が、当校の実績チラシを見て反応した。関心を持って下さったようで、質問が続いた。

「この1校だけの実績ですよね…?」

「他の塾にも通っている人は多いですか?」

「こういう大学に受かるのは、昔は大手の予備校のイメージでしたけど、、」

 こういう隠れた強みに気付いて頂ける時、塾として非常に嬉しく思う。「お目が高い!」と心の中でシャウトしている。一方で「他の塾と何が違うんですか?」と聞かれると、志が違います、中身が違います、レベルが違います、英語以外もプロが教えます、、と一つひとつ説明を重ね、最後は「取り敢えず試して頂ければ分かりますので、、」と手打ち蕎麦屋の主人のような気になる。「うちの蕎麦はうまいよ」と口にするのは、やはり恥ずかしい。こうして文章に書く方が、まだマシだ。

 とにもかくにも、塾を「大手だから」「生徒が多いから」「実績がすごそうだから」といった理由で選ぶのは避けた方がいい。要は生徒の成長のために良い塾はどこか、だと思う。その月謝の何%が、一等地の本社経費や広告費(ノベルティグッズとか…)、その他諸々に消えているのだろうか。

 …と自室で書き終えたところで、「ドン!」という衝撃音と共に、窓に何かがぶつかった。ベランダを見ると、何かがピクピクと動いている。恐る恐る見てみると、、小さな雀だった。ベランダの真ん中でグッタリとしている。

 気温は34℃。体感温度は40℃近くあるのではないか。東京では、熱中症警戒アラートか発令されている。地球温暖化、この異常な酷暑で困っているのはヒトだけではない。飛行中に熱中症にでもなったのか?、空から雀が降ってきたのだ。何かのお告げか?と啓示的な意味を勝手に想像してしまう。

 そのままでは高温ベランダで照焼きになりそうだったので、手のひらに乗せて日陰に運んでから、さらさらと水を掛け、さらにお皿に冷水を注いで、雀の脇に置いてみた。即席の水辺で5分も涼むと、元気を取り戻したのか、窓の向こうからこちらに顔を向けて、口をぱっくり開けて鳴いている。次はエサでもほしいのか、感謝の言葉を発しているのか、それとも我々ヒトによる温暖化を非難しているのか、、、雀語は解らない。

 一仕事を終え、昼食に近所の蕎麦屋でもり蕎麦を啜りながら、さっき天から降ってきた雀の話を店主夫婦にしたら、「あら、いいことしたわねぇ!」と何度も嬉しそうに誉めて頂いた。動物ニュースは、ヒトをほっこりと幸せにする力があるのを実感。

 小学生の頃から通っている蕎麦屋。ご主人は『売上予算』とは無縁だろうが、自分は今までここで何杯食べただろう?と、あやうく数字に換算しようとしたが、、止めた。「ご馳走さま。また来ます!」で丁度いい気がする。

 さて、今日もこれから授業だ。シンプルに行こう。

※1: 塾・予備校の『合格実績』についてhttps://eureka-prep.jp/534/