アポリカ!通信 2024年3月:『Bridging the Dots』

 つい先日、ある男から結婚報告があった。

 元々彼は、わたしが塾業界に飛び込んで、教室長として初めて受け持った中3受験生だった。赴任した教室が『呪われた教室』と巷で囁かれるほどおぞましい修羅場だったのと、私自身初めての重責ということもあり、合格発表の日はかなり緊張していたと思う。結果は、全員第一志望校合格(これで塾業界でやっていける気がした)。彼にはお洒落なセンスと賢さが感じられたものの、アカデミックな野心は全くなく、神奈川県立立野高校という、ちょうど中堅くらいの、都立で言えば向ケ丘くらいのところに進学した。

 そんな彼も、高校入試の後、金髪に染めたりベースを弾き始めてバンドに明け暮れたりしながらも、ほとんど休まず塾に通ってくれた。急にイギリスにファッション留学に行きたいと言い出した時には、じゃあセントマーティンズを目指せば?と真面目に進路指導したこともあった (https://www.arts.ac.uk/colleges/central-saint-martins) 。紆余曲折あって、結局、明治大学の商学部に奇跡的に合格して、あの○○も、ようやくまともな人間になれたか、、と思ったら、しばらくすると大学を辞めたと連絡があった。

 おいおい、あんなにたくさん過去問指導したのによ、、とは思わなかったが、とにかく話そうと、高円寺の風呂屋に行ってから、阿佐ヶ谷の居酒屋に連れて行って事情を聞いてみた。するとどうやら、あれこれ悩んだ末に、どうしてもプログラミングを学びたいから、横浜の専門学校に通うことにしたと聞いた。彼と長々話すうちに、あの○○が、悩んだ末に本気で決めたのだから、あとは悔いのないようにがんばれよ、みたいなことを伝えて会計をしたら、金額を見て酔いが一気に醒めた。

 その後、専門学校を卒業する時に、卒業制作をするというので、ちょうどアポロン立ち上げにウェブサイトとかパンフレットを作る予定だから、良かったらどうだ?と声を掛けてみたら、是非やらせてほしいと快諾された。

 ただでさえ起業は大変なのに、アマチュアの彼との共同作業(とにかく納期を守れない)は、思い出したくないくらいのストレス量だったが、何とか形にできて、アポロンはオープンした。未熟な彼も、ウェブサイトとパンフレットを自分のポートフォリオに含めて、大手IT企業の就職面接でブレゼンすると、(しがない)専門学校生がリアルな起業に関わったことが、面接担当者から高評価をもらえたようで、内定をもらえた。後から聞いた話だが、同期は東大やら何やらの高学歴ばかりで、専門学校卒は彼だけだったそうだ。

 その後も、彼との関係はゆる~く続いて、昨年は荒川の河川敷の『イタフェス』という音楽フェスに二人で参戦した。フェスを主催したのは板橋区出身のバンドで、高校生の頃からファンだった彼を誘ってみたら食い付きが良く、結局2デイズ参加するほど盛り上がってしまった。ライブもフェスも、最高だった。当日は大雨が降ったり、天気雨になったり、今までの二人の歩みのようにドラマティックだった。イベントの後に志村坂上にあるトンカツ屋「桐半」に連れて行ったら、「美味いです!」と喜んでいた。

 そんな彼が、合格の報告ではなくて、なんと結婚の報告をしてくれた。社内で出逢った歳上の女性らしい。そう言えば、付き合う相手は歳上がいいと高校生の頃から言っていた。「お前のようなやつと結婚してくれる人は、おそらくこの世に一人しかいないから、大切にしろよ」と伝えたら、😭←こんな顔文字が送られてきた。就職できて、素敵な女性と巡り会えて、良かったな。これでまた、起業の時の彼との苦労が報われた。

 今年の高校入試も、あの頃のように、全員第一志望校に合格した。それぞれが、自信を持ったり凹んだり、テストや内申の結果に一喜一憂しながらも、納得の行く受験が出来た。みんな、合格おめでとう。でも、これも一つの通過点。これからどんな人生を歩むのかなぁ、、その時は一歩踏み出すのは不安かもしれない。でも後から振り返ると、一歩一歩の足跡が、繋がって大きな意味を持つことがある。タイトルの通り。

 目の前に、また金髪の高校生が現れた。あの子がこれからどう受験と向き合い、どう学び、どう進路を選ぶか…。物語は、続く。楽しみなのは、私だけではないでしょう?